1.はじめに
ティティウスヒラタクワガタ(Dorcus tityus)の飼育記事をまとめました。ライヒヒラタクワガタの仲間でアジア広域に生息、特徴が似通っており、同定が難しい種類になります。特に本種では同種間で少なくとも3パターンの歯型変化(内歯が上がるA型、中間のB型、下がるC型)が認められるようです(BE-KUWA No.76「世界のヒラタクワガタ大特集」より)。今回飼育した個体の産地はチベットのメンリン(中国語「米林」)、平均海抜3,700M程の高地です。
2.種親紹介
種親はブリード仲間のしろむらさん(ティティウスヒラタクワガタ(CBF1)【飼育記①】 : しろむらのカブクワ飼育記。 (livedoor.blog))からのいただきもの。実はこの種親の前世代♀は、当方がブリードしたのですが、♀に偏ってしまいオークションに出品したところ、同産地の♂を所有されていた しろむらさんにご購入いただき、その次世代をご厚意でいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。
♂57mm (2021年4月羽化個体)内歯が中間に位置しており、所謂B型でしょうか。
斜め前方からのショット。
前世代♂は内歯が下がるC型だったとのこと。
エリトラは赤みがあり光沢があります。
♀サイズ未計測(2021年2月羽化個体)
本種を含め近縁種♀の解説ですが、BE-KUWA No.77の「前号補足!世界のヒラタクワガタ ♀の見分け&小型♂の見分け」にも詳細に記載されており大変参考になります。前胸背板の点刻や隆条から本種の特徴を見て取ることが出来ました。
3.産卵セット-割出-幼虫飼育-蛹化-羽化
①産卵セット:2021年9月16日
羽化後2-3か月後で後食開始、成熟は早そうです。とりあえず羽化後半年程度は時間をとりたかったので9月中旬にセット。気性が荒いので♂は顎を縛ってペアリングしたほうが無難です。デジケース中に加水した産卵一番を詰めただけのセットを組みます。管理温度はやや高めの24-5℃で管理します。
②割出 (2021/10/15)
5幼虫7卵を回収。反応が思わしくないのでカワラ材を追加して再セット。2回目の割出は2022年2月6日に実施。
③幼虫飼育(2021年10月中旬~)
大夢プロスペック(クヌギ+オオヒラタケ)200ccに投入、2本目菌糸、3本目はマットのリレーで臨みます。
2022年6月初旬。2本目から3本目へのボトル交換時のショット。最大18.3gでした。この後にマット飼育に切り替えます。16-18℃のエアコン吹き出し口付近で通年管理していました。
④蛹化(2022年7月)
やや内歯下がりなのでC型でしょうか?温度が高めだったからか太くなってしまいました。
⑤羽化(2022年8月)
やや太いですが顎が伸びた良い個体です。
4.羽化個体紹介
①♂61.6mm
2021/10/16 割出(卵)
2022/2/6 月夜野エレメント 800cc (添加剤 3%追加)
2022/2/6 月夜野エレメント 800cc (添加剤 3%追加) 14.6g
2022/9 /E 羽化
②♂63.2mm
2021/10/16 セット
2022/2/6 割出
2022/2/6 月夜野エレメント 800cc (添加剤3%追加)
2022/2/6 月夜野エレメント 800cc (添加剤 3%追加) 14.6g
2022/9 /E 羽化
③♂65.1mm
2021/10/16 セット
2022/2/6 割出
2022/2/6 月夜野エレメント 800cc (添加剤 3%追加)
2022/6/7 DOS生オガ 800cc 18.3g
2022/7/20 蛹化確認 10.3g
2022/8/M 羽化
④♀ 29.2mm
2021/10/16 セット
2022/2/6 割出
2022/2/6 月夜野エレメント 800cc (添加剤 3%追加)
2022/6/M 羽化
⑤♀ 31.0mm
2021/10/16 セット
2022/2/6 割出
2022/2/6 月夜野エレメント 800cc (添加剤3%追加)
2022/6/M 羽化
⑥♀ 32.2mm
2021/10/16 割出(卵)
2022/2/6 月夜野エレメント 800cc (添加剤 3%追加)
2022/6/M 羽化確認
⑦♀ 33.3mm
2021/10/16 セット
2022/2/6 割出
2022/2/6 月夜野エレメント 800cc (添加剤 3%追加)
2022/6/M 羽化
⑧♀ 34.2mm
2021/10/16 セット
2022/2/6 割出
2022/2/6 月夜野エレメント 800cc (添加剤 3%追加)
2022/6/M 羽化
5.まとめ
Dorcusにしては幼虫が弱いのか、1回目で割出、菌糸プリカに投入した幼虫全てが落ちてしまい、トータル羽化数がやや寂しくなってしまいました。マット・材どちらでも満遍なく産み、高山帯の産地とはいえ24-5℃でも普通に産む感じで産卵のクセはあまりないようです。ただ冒頭触れたように初令がやや弱いですが、ある程度大きくなれば菌糸でもマットでも順調に育つような印象。ただし急激に大きくなるようなことはなく、じわじわと成長するので(♂が少なかったということもありますが)手応えを感じることがあまり出来なかったです。最大個体の65.1mmの最大体重は18.3g、蛹体重は10.3gでしたが、野外では80mmに迫る個体も居るようなのでまだまだ改善の余地があります。BE-KUWA NO.76ではA型ですが、メンリンの隣のメトク産のモンスター個体 77mmが掲載されていて、ほぼ同じエリアなので大型個体の作出に密かに期待しているんですよね。山塊一つ越えるだけで実は大きさ変わるんだよね~ってことがありそうなのが怖いですけど…。まずは次世代で幼虫を十分に確保しつつ、より低温で管理したいです。今回エアコン吹き出し口付近の環境(16-18℃)で一貫して管理していましたが、やや太目で羽化してきた個体を見るにつけ、セラーに投入してもっと温度を下げて引っ張てもよいかと思いました。飼育ギネスは73.2ミリ。本種の体型を踏まえると、幼虫体重は24-5g 蛹体重は15-6gくらいは欲しいところです。
最大個体はやや内歯が下がり気味だったものの3個体ともにB型とみてよいのではないでしょうか。歯型変化を記録しつつ次世代飼育も引き続き楽しみたいと思います。
6.参考資料・資材