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クワガタ飼育・採集を中心に自身の趣味・日常を綴ります 

中華人民共和国 上海 採集記

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<プロローグ>

1泊2日で中国・上海へ出張してきました。取引先との会食が早めに終わる予定だったこと、そして宿泊先が上海市中心部(トップ画像がいわゆる“ザ・上海”という感じでしょうか)ではなく、やや郊外だったこともあり(例えるなら、横浜でいえばみなとみらいではなく金沢八景あたりに泊まったような感覚でしょうか)今回は「夜は採集に行く」と最初から決めて、しっかりと装備を準備して臨みました。

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仕事柄、出張は多いのですが、今回ほど事前準備の段階からワクワクした出張はなかったかもしれません。上海といえば大都市ですが、ホペイオオクワガタ(Dorcus hopei hopei)やチュウゴクヒラタクワガタDorcus titanus platymelus)の個体数が多く、現地在住の邦人による採集ブログやYouTube動画も多く見かけます。


<本編>

会食が終わったのは21時過ぎ。ホテルに戻って溜まったメールの確認や返信を済ませると、すでに22時を回っていました。

この時期の上海は、昼間は30℃近くまで上がりますが、夜間は20℃前後。湿度も低く、カラッとした気候で、歩いての採集には絶好のコンディションです。まず向かったのは、事前に目星をつけていた池のある公園。シダレヤナギを片っ端からルッキングしていきます。ですが、見つけたのはコカブトのみ。

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周囲はレストランやカフェが並ぶ明るいエリアだったため、やや光が強すぎたかもしれません。 

なお、中国ではGoogle Mapが使えないため、iPhoneに標準で入っているマップアプリを頼りに移動しました。

 

次のポイントは、住宅街の裏手に広がる農地エリア。水路が張り巡らされており、水辺沿いの樹木を確認しながら、2kmほど離れた民家横の緑地を目指します。すると…水路脇に生えたアカメガシワに、Dorcus属のメスがとまっているのを発見。オーバーハングしていたため落水が心配でしたが、よじ登ってなんとかキャッチ。

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これが上海での初採集。チュウゴクヒラタクワガタDorcus titanus platymelus)のメスでした。本種は黄河ベトナムのホン川の間に広く分布するとされる普通種ですが、オスには顎が短い本土ヒラタタイプからツシマヒラタのような顎長タイプまで、幅広い個体差があることで知られています。オスもぜひ見てみたいところです。

放し飼いの犬に怯えながら、目的地の緑地に到着。そこには、幹の太さが大人の胴回りほどあるしだれ柳が数本まとまって生えており、雰囲気は抜群。道路に一番近いシダレヤナギをライトで照らすと、チュウゴクヒラタのオスを発見。カミキリムシの脱出口から滲み出す樹液を吸っており、穴の中にはメスも確認できました。

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このオスは大顎基部が下がり、発達した顎を持つ個体で、ツシマヒラタやファソルトヒラタに似たタイプ。

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写真を撮り忘れたのが悔やまれますが、同じ木からは本土ヒラタのような短歯型の個体も複数採れ、本種の個体差の多様性を実感しました。

さらに木の裏側に回って、カミキリムシのウロから顔を出している個体を抜くと…小型のホペイオオクワガタ(Dorcus hopei hopei)のオス。

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まさか人生初のオオクワガタ樹液採集の地が上海になるとは…。民家横の緑地での出会いに驚きを隠せません。少し高い位置だったため、穴の中までは見えませんでしたが、メスも同居しているかなと思い掻き出し棒で探ってみると、ややサイズアップしたオスも追加で採集。

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さらに、樹上3mほどの浅い捲れに潜むクワガタを発見し、玉の柄で落としてみると…スジがある...ホペイオオのメスでした。

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このシダレヤナギはカミキリムシの脱出口由来のウロが豊富で、チュウゴクヒラタとホペイオオクワガタの両種が得られる、まさに“御神木”。他にも小型のチュウゴクヒラタが何頭も見られましたが、ホペイも採れたことで満足し、あえて掻き出しは控えることに。

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結局、このエリアの別の木からもチュウゴクヒラタのオスをもう1頭確認。その他のシダレヤナギは樹液が出ておらず、虫の姿はなし。

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満足いく結果を得たので、ホテルに戻ることに。 ぐるっと回り込んで歩いて来たので帰りは早く、徒歩で約30分でした。今後しばらく中国出張の予定がないのが、少し残念です。


<まとめ>

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運が良かった部分もかなりありますが、やはり日本と同じく、“条件の良い木を見つけられるか”が採集成功のカギでした。特に水辺近くのポイントを事前に候補としてストックしておくと、初めての土地でも結果が出しやすいと感じます。

チュウゴクヒラタは日本でいうところのコクワガタ、ホペイオオクワは「コクワ優先地域でたまに出る大歯ノコギリ」くらいの頻度で得られるような感覚でしょうか。

ただ、生息地となる緑地には連続性はなく、倒木や立ち枯れもほとんど見られません。それでもこれほどの個体数が見られるというのは、粗末な枯れ枝でも累代できるような特性がDNAに刻まれているのでしょうか。今回は、日本とはまったく異なる環境でたくましく生きるクワガタたちの姿に触れられた、非常に良い経験となりました。