1.BE-KUWAレコード認定のご報告
冒頭で出オチしてますが、BE-KUWA 89号 にてカステルナウツヤクワガタ(Odontolabis castelnaudi)♂ 85.3mm、同誌90号にて♀ 55.5mmにてダブルレコード認定、また同誌90号のツヤクワガタ特集号で、本種の飼育記事を執筆しています。むし社関係者の皆様におかれましては、貴重な機会を賜りましたこと、この場を借りて御礼申し上げます。
本種の飼育記録は、ブログのみをご覧いただいている方には大変申し訳ないのですが、誌面の都合で盛り込めなかった情報等、BE-KUWA90号の飼育記事の掲載内容を補完する建付けでまとめております。
2.本種周辺情報
カステルナウツヤクワガタ(Odontolabis castelnaudi)は、原名亜種、亜種 inomatai、亜種 mentawaiensisに分類されます。今回飼育した原名亜種は、インドネシアのスマトラ島、マレーシア、マレーシア領ボルネオ島に生息、90mm以上に達する大型のクワガタです。生息域を地図に落としてみると結構広いですね。
現在、生体で最も数多く流通するスマトラ島産は、同島南部のベンクール産をよく見かけますが、北部産や西部産の標本ラベルも見かけるのでスマトラ島に広く分布してそうですね。マレー半島においてはキャメロンハイランド、ゲンティンハイランド、ボルネオ北部はクロッカー山脈のラベルが良く知られています。生息範囲が広いので、原名亜種の中でも大歯型の顎や、エリトラの色合いの差異等、違いが見られるような気がします。例えば、マレー半島産の大歯型は大顎先端が丸く、スマトラ産は伸びる個体がいたりします。大歯型は標本的価値が高く、(大歯型が)生体で入る数がとても少ないです。月刊むしNo.340のクワガタ特集号 11 (1999年6月)のツヤクワガタの歯型の考察に関する記事で本種の野外下における各歯型の発現率が記載されているのですが、サンプル数173頭のうち、21.4%が大歯型とあります。生体マーケットではあまり流通しないので、大歯型の多くは標本マーケットに流れているのかもしれません。
本種は幾何学模様が鮮やかでとても美しいエリトラを持ち、マレー、スマトラ産はクリーム色の個体が多い一方で、ボルネオ産はオレンジっぽい色合いの個体が見られます。
ボルネオ産でもクリーム色の個体はいるようで、真偽の程は分かりませんが、標高の高低でエリトラ色に違いが出る、という話を聞いた事があります。
3. 種親紹介
♂ 85mm
中歯の太い個体。
♀ 50mm(6g), 46mm(4g)
2020年5月にオークションで3ペアを購入。トータル5,000円くらいでした。♂は中歯ではあるものの85mmとそこそこ大型だったので、本個体を種親として、3メスに追い掛けをする予定でした。ところが、受け取り後すぐに1♀が落ちてしまい、2♀体制でスタート。残る♀は50mm、46mmです。それぞれ爪の掛かりも良く、体重は6g、4gです。本種問わず、種親のメスは重みがあるに越したことはないですが、50mmクラスは5-6g以上、体重が乗っていると望ましいところです。
4. ペアリング
念のため顎を縛ってペアリング。顎縛りは普通は♂が♀を加害しないことを目的にやるものですが、本種の場合、どちらかというと逆です。本種は小型の♂がペンチ状の歯型をしているので、交尾を嫌がる♀の脚を噛みきる場合があり、♂が小型になればなるほどペアリングには気を遣った方が良いかと思います。成熟した♂はまるで踊っているように体を小刻みに震わせる姿はとてもコミカルで、この行動が好きなブリーダーは多いのではないでしょうか。
5.産卵セット
①産卵セット(2020年5月8日~)
山桜の赤枯れを採取、産卵用土として活用しました。地面と接地した土化した状態なので、ムカデやコメツキムシ等の雑虫は非常に多いです。特にムカデは丈夫で1日程度の冷凍処理では死滅しません。私はそのまま粉砕してしまいましたが、気になる方は1週間程度は冷凍処理した方が良いかもしれませんね。
②産卵行動(2020年5月15日~)
産卵セットへ投入して1週間程。
土団子を形成する分かりやすい産卵行動をとります。非常に美しい球体を器用に作ります。
③ 幼虫飼育/個別管理(2020年7月~)
430ccプリンカップで多頭飼育していた初令幼虫
430ccプリンカップで個別管理した3令初期幼虫。ここから容器サイズを上げていきます。
今回サイクルでの最大体重は63g、当該個体は残念ながら死亡。
④ 蛹化(2022年1月~)
短歯ながらも蛹体重は30.7g
55gまで成長した幼虫が蛹化時に不全。こうした失敗例を少なくするためにどうすれば良いか知見を蓄えていきたい。
⑤ 羽化(2022年3月~)
短歯ながらも洗車のような重量感のある個体。繭を取り出し、1.4Lのクリアスライダー小で管理。
後半羽化組になるにつれて歯型が発達してきた
レコード登録個体のオス
6. 羽化個体紹介
① ♀ 54.2 mm (BE-KUWA NO.86 レコード認定個体)
2020/6/8割出 → 7/9 孵化
2020/7/23 RTN Uマット×山桜赤枯れマット 460cc
2020/11/21 RTN Uマット×山桜赤枯れマット × グローバル ビートルマット 1700cc 4g
2022/3/18 羽化確認
②♀ 55.3 mm
2020/5/20 割出→6/21 孵化
2020/7/4 RTN Uマット×山桜赤枯れマット 460cc
2020/11/21 RTN Uマット×山桜赤枯れマット × グローバル ビートルマット 1700cc 13g
2021/11/1 前蛹確認
2022/3/22 蛹化確認 13.5g
2022/4/17 羽化確認
③ ♀ 55.5mm (BE-KUWA NO.90 レコード認定個体)
2020/5/31割出 → 7/9 孵化
2020/7/23 RTN Uマット×山桜赤枯れマット 460cc
2020/11/21 RTN Uマット×山桜赤枯れマット × グローバル ビートルマット 1700cc 4g
2021/3/17 グローバルビートルマット継ぎ足し 27g
2022/3/22 蛹化確認 14.5g
2022/6/E 羽化確認
③ ♂ 77.0mm
2020/5/31割出 → 7/9 孵化
2020/7/23 RTN Uマット×山桜赤枯れマット 460cc
2020/11/21 RTN Uマット×山桜赤枯れマット × グローバル ビートルマット 1700cc 3g
2022/3/22 前蛹確認
2022/4/M 蛹化確認 23.6g
2022/7/14 羽化確認
④ ♂ 82.5mm
2020/5/26 割出→6/27 孵化
2020/7/4 RTN Uマット×山桜赤枯れマット 460cc
2020/11/4 RTN Uマット×山桜赤枯れマット × グローバル ビートルマット 1700cc 7g
2021/3/17 RTN Uマット×山桜赤枯れマット × グローバル ビートルマット 中ケース
2022/1/10 蛹化確認 30.7g
2022/3/30 羽化確認
⑤ ♂ 83.7mm
2020/5/31 割出
2020/7/23 RTN Uマット×山桜赤枯れマット 460cc
2020/11/4 RTN Uマット×山桜赤枯れマット × グローバル ビートルマット 1700cc 5g
2021/3/24 RTN Uマット×山桜赤枯れマット × グローバル ビートルマット 中ケース 55g
2021/6/13 RTN Uマット×山桜赤枯れマット × グローバル ビートルマット 中ケース 56g (雑虫発生)
2021/10/17 RTN Uマット×山桜赤枯れマット × グローバル ビートルマット 中ケース 55.4g (雑虫発生)
2022/1/26 前蛹
2022/5/27 蛹化確認 27.2g
⑤ ♂ 85.3mm(BE-KUWA NO.89 レコード認定個体)
2020/5/20 割出→6/21 孵化
2020/7/4 RTN Uマット×山桜赤枯れマット 460cc
2020/11/21 RTN Uマット×山桜赤枯れマット × グローバル ビートルマット 1700cc 7g
2021/3/17 RTN Uマット×山桜赤枯れマット × グローバル ビートルマット 中ケース
2022/7/20 蛹化確認 29.2g
2022/8/M 羽化
<参考> 最大体重63g幼虫(蛹化直前で死亡)の飼育記録
2020/5/26 割出(卵)→6/27 孵化確認
2020/7/4 RTN Uマット×山桜赤枯マット 430cc
2020/11/4 グローバルビートルマット×Uマット×山桜赤枯マット 1700cc 8g
2021/3/23 上記マット+グローバルビートルマット 中ケース 63g
7.まとめ
今回辛くも飼育レコードを獲得できましたが、最大体重個体が死んでしまったことや登録個体が中歯型だったため、不完全燃焼感があります。
今後もしっかりやり込んでいきたいですね。本種の鬼門である産卵や孵化を乗り越え、三令以降は比較的強いなと思ってましたが、蛹化段階で水捌けが悪いと落ちやすいので前蛹に入るまでに対処が必要です。飼育期間が把握出来ていれば、羽化時期からバックキャストして様々な対策ができるのですが、羽化までの飼育情報が少なくて難儀しました。次回サイクルでは今回の失敗と同じ轍を踏まないようにブリードし、自己記録の更新を狙っていきたいと思います。