1.概要・種親入手経路
ヒラタクワガタ(Dorcus titanus plifer)
体長:♂20mm - 75.4mm(野外レコード)、♀20-40mm
分布:九州(南西諸島、対馬、壱岐、五島列島等は別亜種生息のため除く)、本州(北限は山形県酒田市)
ヒラタクワガタは、東南アジアに広く分布している南方系のクワガタであることから、国内では西日本エリアでの個体数が多いことはよく知られています。
私の実家がある愛知県知多エリアでも昔は御神木を巡れば高確率で採集できました。しかし、2009年頃から太陽光発電の余剰電力買取開始に伴いメガソーラー建設が至る所で始まったことに加え、ナラ枯れ被害が追い打ちをかけ、数多くの御神木が失われてしまいました。昔のようにはもう採れないと親父から聞くにつけ、とても悲しい思いをしたものです。そんな状況(2017年7月初旬)の中、出張ついでに実家へ帰省することがあり、自宅周りの農業用道路の傍らに生える小さなコナラの木から樹液の香りが漂っていて、ヒラタ、ノコ、コクワが採集できました。
また、この木のすぐ近くには、御神木クラスのコナラもあり、夜間に再訪すると、洞から大きなヒラタが顔を出していたので素手で抜いて採集。上述の通り地元産ヒラタは環境破壊により年々見れなくなっているので、保護的観点と地元産ヒラタがどれほどポテンシャルがあるのか検証してみたくなり、ブリードしてみることにしました。
2020年1月帰省時に再訪したところ、このポイントも太陽光パネル設置工事が行われており消滅していました…
御神木に潜んでいた♂59mm このエリアでは特大サイズ。
♀33mm(写真右上)大顎の擦れ具合から、越冬個体か。
2.産卵セット投入
産卵セットに投入したのは翌年の2018年3月初旬。
使用ケース:コバエシャッター中
使用マット:モンスタークワガタ産卵マット
ケースの七分目くらいまで堅詰、加水したホダ木を置き、その上に無加圧でマットをかけます。仕上げに転倒防止用にウッドチップをまぶし、リビングで管理。リビング温度は18-25℃ほど。当時は賃貸社宅に住んでおり、ブリードスペースがなく、温度変化の激しいリビングの片隅でやっていました。
♀が大顎や体表も擦れて、ボロボロな越冬個体だったのであまり期待はしていませんでしたが、レスポンスは比較的良く、セットを組んでから数日でケース底部に卵が確認出来ました。3月下旬には割出を行い、卵と幼虫含め9頭確保に成功。♂4頭、♀5頭でした。
ヒラタは、マットだけでも十分産みますが、水分量を多めに加水してあげることと、(冬場・春先にセットを組む場合など)必要に応じて加温してやることでスイッチを入れてあげることがポイントだと思います。
幼虫は初齢段階で大夢プロスペック オオヒラタケ500ccに投入。♂は、2本目以降は、800cc(同一菌糸)、3本目はマット飼育へシフトし、羽化までリレーする計画にしていました。
3月末‐4月初旬に初齢で回収し、夏場にかけてリビングの温度が安定して25度くらいになるにつれて幼虫の成長も加速。
7月末には3齢初期まで加齢、体重は13-14gまで到達していました。ここから急速な加齢を避けるため、20度設定のワインセラーに投入し、一旦管理温度を下げました。ところが、9月末‐10月初旬にかけて、暴れが目立つようになったため、3本目のマット飼育へシフト。
使用資材は、800cc+モンスターのクワガタ産卵マットへ投入しましたが、暴れが発生してからの対応だったため、体重が少し落ちてしまい、蛹化前の最大値は13gに。次世代は3齢初期になった時点で、マット飼育(使用容器は800ccではなく1500cc)にシフトし、18-20度の低温でじっくり管理した方が良い気がしています。
3.蛹化‐羽化
孵化後8-9か月で蛹化。蛹は羽化まで人工蛹室で管理。
完品で羽化した63mmの♂
一方、♀はワインセラーに入れるスペースが確保できなかったため、夏場の管理温度が高くなってしまい、9月中旬には全頭が早期羽化。3齢段階で25度以上、一定期間経過するとすぐにスイッチが入ってしまう印象を受けました。大型♂の作出のためには、種親♀のサイズが重要になってくるので、F2世代では温度管理を♂と同様にするか少し低めで管理したいと思います。
4.羽化個体紹介
以下、全羽化個体です。
① ♂63mm. 私の地元で60mmオーバーとなると、一夏で採れるか採れないか、というクラス。そんなサイズが出てきたのは素直にうれしいものです。顎が長く個人的には好きなフォルム。次世代の種親とします。
② ♂60mm. 上記の個体に比べ、大顎が短く、体も太い存在感のある個体。
③ ♂57mm. 細身ですが完品羽化。
④ ♂55mm. 人工蛹室のオアシスを噛み込んでしまったのか前胸背板にディンプルが出来てしまいました。
♀たちは早期羽化で金太郎飴状態に...次世代のペアリング予定も付記しています。
⑤ ♀33mm
⑥ ♀36mm. 最大サイズのため種親とし、①とペアリングさせ、Aラインとします。
⑦ ♀33mm
⑧ ♀35mm. ①とペアリングさせBラインとします。
⑨ ♀35mm. ②とペアリングさせCラインとします。
5.まとめ
今回、4♂中、60mmオーバーが2頭出てきてくれたため、次世代は3ラインに挑戦し、65mm以上、あわよくば70mmの作出をしたいところですね。
個人的な意見ですが、地元産×自己採集はどんな高価なクワガタにも勝ると考えています。ヒラタに限らず他種においても同様のコンセプトでブリードを楽しんでいきたいと思っています。