1.はじめに
今回飼育したのはパリーフタマタクワガタ(Hexarthrius parryi paradoxus)です。マレーシア、インドネシアのスマトラ島に生息する大型種です。マレー産とスマトラ産とでは体格差や頭部の隆起形状など違いがありますが、同一亜種として分類されています。定期的にWD便があるスマトラ産は入手が容易であることや、材産み種且つ幼虫期間も長いため、ブリードを真剣にやっている人が少ないかと思います。ギネスの飼育方法が中ケースを活用して作出したことからすると、容量依存する種のようですね。
採卵に若干難あり×(幼虫期間が比較的長く大型化を狙うのであれば)ブリードスペースを侵食する×累代してもWDが安価なので赤字のリスク、という3重苦が待ち受けています。収益上げることには興味はありませんが、用品代回収=ブリード持続性と考えれば有難いのは事実…とはいえ、その形や色合い、どれをとっても美しくカッコいい種類ですので3重苦を厭わず純粋に飼育を楽しめるドMブリーダーにはとてもオススメです。
2.種親紹介
2019年5月末にオークションにてスマトラ島ベンクール産WDを購入。1,500円-2,000円のレンジだったと記憶しています。
♂87mm 野外最大が94.4mm(更に大きな標本が存在するようです)、飼育ギネスが92.1mmですので、比較的大型個体かと思います。
♀43mm ギネスは55.8mmですので、少し小ぶりです。こいつら独特の香り?匂い?がしますよね。香りというほど上品な感じではなくどちらかというとクサい...
3.ペアリング-産卵セット-割出-幼虫飼育-羽化
①ペアリング(2019年9月30日)
同居。すぐに交尾を確認。
②産卵セット(2019年10月14日)
自家製バクテリア材と加水ホダ木を平置き。
投入して2週間ほどで齧っている様子が確認できました。管理温度は18-20℃
③割出(2020年1月12日‐2月2日)
思っていたよりも取れたましたね。卵から2令終盤の個体もいるので、ダラダラ産んだのでしょう。材から7割、マットから3割出てきましたが、マットは材から卵が落ち、孵化したものと思われます。
④幼虫飼育(2020年1月-)
クヌギ主体の生オガ発酵マットを2銘柄使用しました。♂は、800cc→1400cc or 2300cc or 3250ccの2本、♀は800ccの2本のリレーを基本としました。
18-20℃管理 3-4か月飼育で15-6gがアベレージでした。
幼虫は坑道を作って居食いをしながら成長するようです。交換後に、居食い体制にうまく入れないと、蓋付近を徘徊する「暴れ」が発生しやすくなる気がします。眉唾とは思いますが、以下をやっておきます。①2本目への交換は出来るだけ3齢初期のタイミングで行う ②再発酵に伴う酸欠防止の観点から、新しいボトルはマットを詰めてすぐに使用するのではなく一定期間寝かせてから使用 ③投入口を垂直に掘るだけではなく、投入口下部を横方向にも出来るだけ掘り進める...眉唾ですので...
3齢終盤になってくると顎の力が強くなり、クリアボトルでさえ食い破ってくることがあります。
直径3-4mm程の穴をあけられてしまったので、パテで埋めてみたのでしたが、イマイチで結局穴部を朽木で埋めてガムテで補強しました。
⑤蛹化-羽化(2020年9月-)
♀は2020年9月頃より順次蛹化が開始。♂はまだまだ幼虫なので、羽化ズレしてしまいそうです。
2020年10月中旬に羽化した♀
2020年末から♂蛹化開始。
最大の蛹体重は27g。90ミリを狙うには30g以上が必要かと思います。
羽化間近の個体。
いずれの個体もテネラルが美しいですね。
4.羽化個体紹介
① ♂ 74.5mm
2020年2月2日割出
2020年2月4日 クヌギマット 800cc
2020年6月23日 DOS生オガ2300cc (16g)
2020年12月30日 蛹化確認
2021年2月16日 羽化確認
② ♂ 82.0mm
2020年1月11日割出
2020年2月4日 クヌギマット 800cc
2020年6月23日 DOS生オガ 1400cc (22g)
2020年12月30日 蛹化確認
2021年2月中旬 羽化確認
③ ♂ 82.6 mm
2020年1月11日割出
2020年2月2日 クヌギマット 800cc
2020年7月16日 DOS生オガ 2300cc (20g)
2021年3月18日 蛹化確認(25g)
2021年4月下旬 羽化確認
④ ♂ 85.2 mm
2020年1月12日割出
2020年2月2日 クヌギマット 800cc
2020年5月24日 DOS生オガ 3250cc (16g)
2021年2月24日 蛹化確認(27g)
2021年4月下旬 羽化確認
⑤ ♀ 51 mm
2020年1月12日割出
2020年2月2日 クヌギマット 800cc
2021年5月24日 DOS生オガ 800cc (15g)
2021年10月8日 蛹化確認
2021年3月25日 自力ハッチ
⑥ ♀ 45mm
2020年1月12日 割出
2020年2月2日 クヌギマット800cc
2020年6月23日 DOS生オガ 800cc (14g)
2020年9月5日 蛹化確認
2020年10月8日 羽化確認
⑦ ♀ 48.7mm
2020年1月12日 割出
2020年2月2日 クヌギマット800cc
2020年6月23日 DOS生オガ 800cc (14g)
2020年10月M羽化
2021年3月25日 掘出
⑧ ♀ 50.0mm
2020年1月12日 割出
2020年2月2日 クヌギマット800cc
2020年6月23日 DOS生オガ 800cc (15g)
2021年3月25日 自力ハッチ
⑨ ♀ 50.7mm
2020年1月11日 割出
2020年2月2日 クヌギマット800cc
2020年6月23日 DOS生オガ 800cc (14g)
2020年10月8日 前蛹確認
2021年3月25日 掘出
⑩ ♀ 42.0 mm
2020年1月12日 割出
2020年2月2日 クヌギマット800cc
2020年9月5日 DOS生オガ 800cc (11g)
2021年3月11日 自力ハッチ
⑪ ♀ 50.3 mm
2020年1月11日 割出
2020年2月4日 クヌギマット800cc
2020年9月5日 DOS生オガ 1300cc (16g)
2020年10月23日 羽化
⑫ ♀ 52.0 mm
2020年1月11日 割出
2020年2月2日 クヌギマット800cc
2020年6月10日 DOS生オガ 800cc (16g)
2021年3月11日 自力ハッチ
⑬ ♀ 52.0 mm
2020年1月12日 割出
2020年2月2日 クヌギマット800cc
2020年6月10日 DOS生オガ 2300cc (15g)
2020年12月M 羽化
5.まとめ
インドネシアのクワガタを代表するパリーフタマタクワガタ。最大個体は蛹化時に落ちてしまいましたが、今回初めてサイクル回してみた感想としてはマット飼育で幼虫も大きくなりますし、垂涎モノのカッコ良い個体が羽化してきてくれたので非常に楽しかったですね。交換タイミングや羽化ズレ対策など、ある程度課題が見えているのでそれを潰しながら、次サイクルでは90ミリを狙いたいところです。
この頭部のコブの主張。こんな独特且つ強烈な存在感を放つクワガタが気軽に手に入れることができるのは本当に幸せですよね。現代日本に生まれクワガタ好きで良かった...冒頭で色々とネガティブなことを囁きましたが、誰が何と言おうと良いクワガタと思います。皆さんもやってみませんか??