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クワガタ飼育・採集を中心に自身の趣味・日常を綴ります 

東京都 八丈島 採集記

ハチジョウヒラタクワガタ

1.はじめに

5月末に2泊3日で採集・ブリード仲間のR氏と八丈島に行ってきました。八丈島に生息するクワガタは以下の通り。個人で楽しむ分だけ持ち帰りブリードしてみたいと思います。

- ハチジョウノコギリクワガタProsopocoilus hachijoensis

- ハチジョウヒラタクワガタDorcus titanus hachijoensis

-  ハチジョウコクワガタDorcus rectus miekoae

-  ハチジョウネブトクワガタ (Aegus laevicollis fujitai)

-  チビクワガタ(Figulus binodulus

2.八丈島について

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八丈島の成り立ち

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東京都心から287km南方に浮かぶ火山島で、西山(八丈富士854M)と東山(三原山 701M)が並ぶひょうたん島のようなかたちをしています。八丈島が誕生する前にもいくつかの火山島があり、東山は10万年以上前からそれらの残骸を下敷きにして成長、何度も山を造ったり壊したりしながら噴火を続け、4千年前頃には活動が衰退。一方、西山は1万年前に活動を始め、初めは海中で激しい爆発を繰り返し、やがて富士山型の山になり、一時は、大噴火によって山の上半分を失ったものの、その後また山が成長して現在の形に。若い西山は美しい姿を、古く複雑な構造の東山は豊かな水源を持っています。

② 気候について

八丈島の気候は、暖流の黒潮の影響を強く受け、温暖な海洋性気候で常春の島とも呼ばれています。冬暖かく、霜が降りたり雪が降ることはほとんどない一方で、雨が多く、快晴日数は年間をとおして9日程度(東京46日)で、年間降水量は東京都心の約2倍です。このため、伊豆諸島の中で一番水に恵まれ、東山の水源は一年中枯れることがありません。また風が強いことも特徴で、風速10M以上の日が年149日に達し、東京の31日の5倍になります。

③生物相

■植物について

八丈島の植物のルーツは、大きく3つに分けることができ、1つ目は大陸から八丈島に根をおろすことになったもの。アジア大陸から北海道・関東経由でヤシャブシの仲間をもたらした北方系ルートと、アジア大陸から朝鮮半島・九州・関東経由でイヌビワなどをもたらした南方系ルートです。これらの植物の種は、鳥によって運ばれたものと考えられます。2つ目は風ルートによるもの。シダの胞子やランの種はとても小さく軽いので、風に簡単に飛ばされます。これが季節風などに乗って八丈島に運ばれてきたと考えられています。シダやランの仲間に台湾や沖縄、小笠原との共通種が多いのはこのためです。3つ目はハマオモトやハマヒルガオの種を八丈島まで運んだ黒潮ルートです。

■動物について

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八丈島には固有種が数多く生息していますが、アズマヒキガエルやサソリモドキ、クロカタビロオサムシなど歩行性の強い八丈島のクワガタたちにとって脅威となるような移入種をはじめ、様々な種類の繁殖が問題になっています。

3.交通手段・食料・観光事情編

八丈島までの交通手段

フェリーと飛行機の2パターンですが、いづれの手段も気象・海象条件の影響が大きく、遅延や欠航が頻発します。

■フェリー

八丈島行のフェリーは東京 竹芝桟橋から途中、三宅島、御蔵島を経由して底土港または八重根港を片道約10時間20分で結んでいます。波が高いときは島を飛ばして次の島に行ったり、それでも接岸できないときはUターンすることもあるみたいですね。今回は往路でフェリー利用したのですが、御蔵島に接岸できず、八丈島に到着した後に接岸再トライ、というような状況でした。伊豆群島の風の強さを目の当たりにした次第です。

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客室は特等室から2等室まであり今回は最も安い2等室にしました。端にしか電源がないので、モバイルバッテリーを持って行った方が良いですね。毛布を1枚100円で貸し出してくれるので、床が硬かったので敷布団用にもう1枚追加で借りました。

■飛行機

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全日空の定期便(1日3便)があり、羽田空港八丈島空港間を約55分で運航しています。八丈島空港は東山と西山の谷間にあり、この構造がモロに風の影響を受けたりすることが多く欠航も多いようです。今回は復路で利用します。

八丈島のレンタカー事情

レンタカー会社が少ないので、早めの予約が必要かと思います。その日の運行状況に応じて港まで迎えに来てくれます。今回はガソリンスタンドが兼業しているレンタカー会社で、とても気さくな方でした。

③食料事情

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コンビニがないので地元のスーパー「あさぬま」にお世話になります。午前中でお惣菜が売り切れてしまうので、あらかじめ買い込んでおくことをオススメします。オススメはなんといっても伊豆諸島定番の郷土料理、島寿司。

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伊豆大島では、唐辛子醤油につけこんだ魚の切り身がネタでかなり辛いのですが、八丈島は香辛料を入れないようでマイルドな味付けです。

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魚は本州では食べられないような珍しい種類のものも売っているので、調理器具があるような宿泊施設であれば自前で料理しても良い思い出になるかもしれませんね。

④宿泊

宿泊したのは「Diving Base Breeze & Divers'in KENCHA RUMAH」

八丈島はダイビングが有名ですが、ダイバー御用達の宿のようです。

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部屋数が多く、キッチン、冷蔵庫一式あり、窓から八丈富士が見えてとても快適でオススメです。ここでも車が借りれるようなので、宿泊とセットで手配しても良かったですね。すぐ近くの街灯でハチジョウコクワも拾えます。

⑤観光・おみやげ

■観光

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当然クワガタ採集メインなので、観光らしいことは殆どしていないのですが、八丈島は火山島なので島の至る所に公営の温泉施設があります。採集の合間のリフレッシュや帰り際に疲れた身体を癒すのにオススメです。シイタケ販売やレストラン経営に加えてクワガタもブリードされている「大竜ファーム」さん(当日は定休日でした…)近傍の「やすらぎの湯」を利用、湯船から海が見えて最高の眺望でした。

■おみやげ

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くさや、パッションフルーツ、八丈焼酎などお土産の選択肢が沢山あるのですが、伊豆諸島原産の明日葉を使ったハーブソルトは肉料理にもマッチして良かったです。

3.採集編

さて、いつもの通り前置きが大変長くなってしまいましたが、本編に入りたいと思います。

(0日目)

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竹芝桟橋にて出港の時間を待ちます。10時間越えの船旅。かなり揺れるので寝ることに徹したいと思います。というわけで、寝酒します。酒を飲みまくります。スキットルにウイスキーを入れて、最寄りのコンビニで氷入りのカップを購入、自家製ハイボールを作って飲酒!真性酒カスです。

八丈島まで就航しているのは黄色い船体とノルウェー国旗に似た東海汽船の社旗が特徴的な「橘丸」です。

東京湾の美しい夜景を見ながら22:30に出港、八丈島を目指します。乗っている船が違うのと、往復路、昼夜逆ですが新海誠監督の「天気の子」を彷彿させます。

(1日目)

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御蔵島をスキップしたからか八丈島の底土港に定刻よりも早く到着。八丈島らしく風が強いです。レンタカーを借りて早速ポイントへ。藪漕ぎをしながら傾斜を頑張って登ります。するとすぐにハチジョウノコギリクワガタの♀を発見。

シロアリが入り手でも簡単に崩れるような柔らかい材の中に入っていました。これから産卵行動に入ろうとしていたのでしょうか。手にとって見ると本種の特徴を示すキーワード「丸み」「ずんぐりむっくり」がスッと腹落ちします。

暫く同じ林内を探索していると、ハチジョウヒラタのペアを材下から立て続けに得ることが出来ました。

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小さいですが、大顎の先端にかけて著しく細くならない本種の特徴が出ているように思えます。山手線内側の面積しかない島であるにも関わらず、大顎の形状に局地的な変異がみられます。個体数も最も多い内歯基部が下部に位置するA型、南西諸島産のヒラタように内歯が中央に位置するB型がおり、真偽の程は分かりませんが、島の周回道路が開通してから殆ど飛翔しない本種が歩行により生息地間を移動できるようになったため、A型とB型の中間的な歯型のAB型が見られるようになったとのこと。今回採集できたのはA型です。

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この2種類を採集した山の低地エリアではサソリモドキが大量に発生していましたが、それよりもやや高所でクワガタが得られるエリアではサソリモドキは見られませんでした。サソリモドキは肉食且つ地上歩行性が強いので地上歩行性の特徴のある八丈島のクワガタは格好の餌になっているのかもしれません。

午後はハチジョウネブト狙いで場所を移動します。本種の個体数は多く、よく湿った朽木と地面が設置している地面側を少し掘り進めるだけで相当な数が出土します。

樹液やトラップで得られたネブトの成虫は産卵しないことが多いのですが、これはネブトの♀が羽化してから発生した場所で交尾し、産卵した後に餌場に飛来する生活史によるものと思われます。ネブトの幼虫は弱いので輸送中に死んでしまうことが多く、今回の採集でも多くは持ち帰りたくないので♀の成虫だけでも得れると良いのですが、成虫は全く出てきません。

ネブト採集の後は、ハチジョウノコギリの大型の♂狙いにシフトしますが、中々成果が出ません。

そのような中、これまた国内移入種のクロカタビロオサムシに襲われてボロボロになった本種の♂を材の下から発見。サソリモドキのようにクロカタビロオサムシもクワガタにとって脅威のようですね。

夕飯は三根にある中華居酒屋「蓮華」へ。明日葉ラーメンを食べたかったのですが、残念ながら品切れ。れんげスペシャルを美味しくいただきました。ごちそうさまでした。

 

夜はハチジョウコクワ、チビクワを狙いに街頭めぐりに出かけます。ハチジョウコクワは昔は局地的にしか生息していなかったようですが、最近は生息域を広げているようで島内全域で確認出来るようですね。

早速、公衆トイレの軒先にハチジョウコクワを発見。

小豆色で美しいです。外灯巡りを開始すると風が吹き上げてくるポイントで本種を大量に確認出来ました。

生息域を広げ個体数が増えているのは本当のようですね。明日以降はサイズアップを狙っていきたいと思います。初日にしてチビクワを除く4種を見ることが出来たので、幸先の良いスタートでした。

 

(2日目)

初日に続いて2日目も天気が良く夏日で暑いです。

細材にもハチジョウコクワの産卵マークが入っています。勢力拡大の要因は一体何なのでしょうか。不思議です。

ハチジョウノコギリ♂を探しているのですが、なかなか見つかりません。バラバラの死体はよく見かけるんだよな…と林内の細材を起こしてみると小歯型の♂を発見。

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動きが早く撮影がとても難しいですね。小型とはいえ、丸みを帯びたエリトラにより腹部が大きく見えるので、本土ノコを見慣れている自分からすると異質です。

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暑い日なので採集の合間の甘味が堪らなく美味しいですね。

この日はハチジョウネブト♀の採集も出来たので持腹に期待です。

また、初日に続き、ハチジョウノコギリの♀を再び観察出来たのですが、この個体は土中に埋まった材に穿孔し、クワガタの幼虫を捕食している最中でした。野外下で何かを食べている様子は殆ど観察されていないと記憶しているのですが、♀は土中や材に入り込み動物性の餌を摂取しているからかもしれませんね。良いものを見せてもらいました。

夜は再び外灯巡りに出かけます。

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この日も新月の前日で条件が良く46mmに迫るハチジョウコクワに加えて、チビクワガタも採集・観察することができました。1日を残し、八丈島全種コンプリート出来たので足取り軽く宿に戻ります。

 

(最終日)

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最終日は温泉に入ったり、ドライブしたりのんびりと過ごしながら、離島を満喫します。

帰りは飛行を利用して帰ります。快適…

4.採集個体紹介*持ち帰り個体のみ

■ハチジョウノコギリクワガタProsopocoilus hachijoensis

♀35.8mm

♀27.1mm

■ハチジョウヒラタクワガタDorcus titanus hachijoensis

♂35.0mm

♀27.1mm

■ハチジョウコクワガタDorcus rectus miekoae

♂45.8mm

♀27.5mm

 

④ハチジョウネブトクワガタ (Aegus laevicollis fujitai)