1. はじめに
今回は幼虫からになりますが、アマミマルバネクワガタ(Neolucanus protogenetivus protogenetivus) の飼育記録をまとめました。
南西諸島産の各種マルバネクワガタは秋の深まりとともに、発生が南下していくことが知られています。桜前線ならぬマルバネ前線ですかね…マルバネクワガタ北限種である本種は野生下では9月頃から発生します。残念ながら現在は採集が禁止されており、生体はブリード品を手に入れるしかありません。ところがヤフーオークションの細則変更に伴い個人間での売買が出来なくなってしまったため、以前ほど購入するチャンスが減ってしまっています。ショップやイベントで見つけ次第、手に入れたいところです。
2.種親関連情報
産地:鹿児島県大島郡徳之島町 天城岳産
種親サイズ:♂59mm × ♀49mm
野外レコード:65.9mm
飼育レコード:69.9mm
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徳之島産は奄美大島産に比べて大歯が発達しやすく、飼育も幾分容易な産地として知られています。飼育にあたり気候等調べてみると、奄美大島より降水量は少なめ、夏場の平均温度・湿度等は東京に比べると低く過ごしやすい、冬場は南西諸島の中では緯度が高いことから意外と寒い、このあたりが主な特色でしょうか。これら周辺情報を頭の片隅に置きながら、オーソドックスですが赤枯れマットをベースにしたエサや低温管理をベースに飼育計画を練ります。種親♂サイズは59mmとまずまず。とりあえず親越えの60mmを目指します。
3.幼虫飼育
①幼虫について
2021年3月中旬に某ショップから購入。2020年9月割出とのことで幼虫体重は2-4gほど。2齢ですかね。8頭体制で臨みます。
②使用マットについて
今回使用したマットはグローバルのビートルマットと山桜の赤枯れをミキサーにかけ微粒子にしたものを7:3でブレンドしたものです。両方とも仕込みに時間をかけています。市販のマットは、袋の中で再発酵することがあり、そのまま使用すると幼虫が落ちてしまうことがあります。分解が進んだエサを好む本種にはまだまだ消化しきれない状態であるものが多いように思います。従って、購入直後のものは使用せず、通気を確保した上で十分に寝かせたものを使用する方が良いと感じています。今回使用した市販マットも購入してから半年ほど寝かせています。赤枯れ材も不朽の度合いによってはひと手間かける必要があります。例えば、明るい赤色の材は分解の途上にあるため、使用する場合はミキサーにかけ加水、黒っぽく変色し且つ粘りが出てくるまで寝かせる等の工夫を施しています。
③飼育容器について
今回の飼育では、1.7Lのタッパー容器を基本に使用しました。
銘柄は山田化学のミリオンパック角深1700です。絶妙な深さが好きで色々な人にオススメしています。廃盤にならぬよう、皆さん、ガンガン買って買い支えしましょう笑 小売りだとSeriaやCan Doなどの100円ショップで購入が可能です。
タッパーを使う利点はボトルと違って開口部が広いため、刺激を最小限に抑えて幼虫の移し替えが出来ることやマットの継ぎ足しが容易であることです。一方で、乾燥しやすいので加水加減が重要になります。
通気を目的としてフタをドリル等で穴をあけ、タイベストシールを貼ります。
このまま幼虫を投入するとタイベストシールを食い破ってしまうため、鉢底ネットを通気穴直下に置き、ガードすると良いかと思います。さらに小蝿対策として食品工場等で使われる使い捨てのヘアキャップで上下を覆うとより安心です。
④管理温度について
購入して直ぐに個別飼育を開始しましたが、低温環境でじっくり成長させることを意識しつつ16-8°で管理、マット継ぎ足し以降は羽化を見据えて18-20°で管理していました。
⑤幼虫投入とマットの交換について
食性が限定的で繊細な種類なので、幼虫の投入方法やマット交換には細心の注意を払います。
■購入時の幼虫投入
プリンカップからタッパーに移す際は、プリンカップ内部の用土を綺麗に型外しすることをイメージしながらひっくり返し、タッパーに移し替えます。
継ぎ足すマットは、プリン周囲に優しく混ぜることなく投入、周囲の環境と馴染ませるために1週間ほどそのままにします。その後、容器容量いっぱいまでマットをやさしく充填する要領です。
■マット交換
私はマットは全交換はせず、幼虫の位置に気をつけつつ、タッパーの縦方向半分を慎重に削り交換していました。交換時は特段赤枯れ等は追加せず、半年寝かせたビートルマットを加水の上、継ぎ足します。
4.羽化個体紹介
① ♂ 57.3mm
2020/9 割出 (Y/N)
2021/3/21 ブレンドマット(山桜赤枯れ+ビートルマット) 1500cc 2g
2021/10/11 ビートルマット継ぎ足し
2023/6/29 自力ハッチ確認
飼育期間:34か月
②♂ 58.5mm
2020/9 割出
2021/3/21 ブレンドマット(山桜赤枯れ+ビートルマット) 1700cc 4g
2022/7/M 自力ハッチ確認
飼育期間:23か月
③ ♂ 59.0mm
2020/9 割出
2021/3/21 ブレンドマット(山桜赤枯れ+ビートルマット) 1700cc 4g
2021/10/11 ビートルマット継ぎ足し
2022/7/26 自力ハッチ確認
飼育期間:23か月
④ ♂ 64.1mm
2020/9 割出
2021/3/21 ブレンドマット(山桜赤枯れ+ビートルマット) 1700cc 4g
2021/10/11 ビートルマット継ぎ足し
2022/7/26 自力ハッチ確認
飼育期間:23か月
⑤ ♂ 66.3 mm
2020/9 割出
2021/3/21 ブレンドマット(山桜赤枯れ+ビートルマット) 1700cc 4g
2021/10/11 ビートルマット継ぎ足し
2023/5/5 自力ハッチ確認
飼育期間:33か月
5.まとめ
8頭中、5頭の羽化を確認できました。当初目標であった60mmを大きく上回り、野外レコード(65.9mm)を上回る完全大歯個体(66.3mm)を羽化させることが出来ました。
大顎の縦角は単純に上方向に向くだけでなく、内側に板状に大きく巻き込んだ迫力ある造形で、本種の特徴を飼育下で最大限引き出すことができとても嬉しかったです。標本にしたのですが展足の上手い方に修正して欲しい…
同じ条件、同腹での飼育でしたが、2年1化(58.5mm、59.0mm、64.1mm)と3年1化(57.3mm、66.3mm)で分かれました。私のミスで羽化出来なかった♀は3年1化組だったので、雌雄で幼虫期間に差が出るわけでもないので、本種をブリード継続するためには数を抱えるしかなさそうです。ただ、最低でも2年と長期にわたる幼虫期間と、冒頭でも述べたように購入チャンスが減っていることが相まって飼育ハードルは益々高くなっています。飼育人口が減り、本種が市場から消えてしまうことを危惧します。
完品♀を得れなかったのは非常に残念ですが、今回の管理方法やマットの配合はうまくいったので、今回飼育方法をベースにサイズアップを狙っていきたいところです。奄美大島産は現在飼育中ですが、また機会があれば徳之島産でも再チャレンジしてみたいと思います。
6.PHOTO GALLERY
7.参考資材・書籍
■山田化学株式会社「ミリオンパック角深1700」
■ヘアキャップ
■グローバル: ビートルマット
■各種書籍