1.はじめに
今回は自己採集した伊豆大島産ノコギリクワガタ(Prosopocoilus inclinatus inclinatus)の飼育記録になります。
伊豆大島は本種の生存競争相手の筆頭であるカブトムシが生息していない(近年、移入個体が少数確認されているようです)ためか、伊豆大島の中で生息するクワガタムシの中で最も個体数が多いです。実際に確認した個体数で言えば、本種、イズミヤマ、コクワガタの順でした。生息場所に局地性のあるマダラクワガタやネブトクワガタを除けば、伊豆大島で最もレアなクワガタはヒラタクワガタかもしれません。
平均サイズは本州産よりも大きく70mmを超える採集報告をよく耳にしますし、大型化する傾向にあることは間違いなさそうです。個体差の範疇に過ぎませんが伊豆大島産は全体的に大顎が強く湾曲し太ましいフォルムです。一方でストレートな大顎、華奢な体躯により体長を稼ぎやすい傾向にある壱岐産や北部九州産が本種の飼育レコードかと勘違いしがちですが、現時点(2023年6月時点)での本土ノコ飼育レコードは伊豆大島産(76.8mm)です。
レコード産地に期待を寄せて、まずは70mm超えを目指して飼育してみようと思います。
2.種親紹介
♂65.4mm
藪漕ぎして苦労して採集した個体。元町産です。ヤシャブシの幼木が生えているところであればどこでも観察出来るかと思います。野外品♂なので種親として使ったところでどこまで次世代に反映されるかわかりませんが、湾曲が強く太いフォルムが好みだったので種親として持ち帰りました。
♀36.0mm
♀は38mm以上の個体を狙っていたのですが、サイズが伸びませんでした。36mmなので本州でも普通に採れるサイズですね。
3.産卵セット
2021年9月3日
メガフードコンテナに篩掛けした廃マットを固く詰めたオーソドックスなセット。真夏でも24-5℃の環境下が維持できる床下に置きます。
4.幼虫飼育-羽化
(産卵確認) 2021年9月7日
セットして僅か4日で卵が見えだしました。♀が卵や幼虫を盛んに食べるので早めに解除します。
(割出)2021年9月16日
(卵回収)2021年9月16日
15卵回収して打ち切り。管理負荷的に1種あたりこれくらいの数が私には理想です。今回は、初令から菌糸プリカで管理、ある程度大きくなってからマット飼育に切り替え、温度変化に緩急をつけて管理していきます。
(ボトル交換)2022年1月22日-2022年9月13日
1回目の交換は孵化から4か月ほど経過した2022年1月中旬に交換。その際の最大体重は10.4gでした。体色などからはまだまだ伸びそうです。ここまでは24-5℃で管理。
こちらは2回目の交換。24-5℃から管理温度を大きく下げて大型化を目指す志向です。まずまずですね。
(蛹化)2022年10月23日
太い個体なので60mm後半か…
人口蛹室で管理。色付いてきました。
(羽化)2022年12月4日
太さはあるのですが、体長が物足りない感じです。
5.羽化個体紹介
① ♀ 37.1mm
2021/9/16 割出(卵)
2021/10/24 大夢プロスペック 200cc
2022/1/22 恵栽園クワガタ発酵マット 500cc 5.5g
2023/2E 羽化確認
② ♀ 38.1mm
2021/9/16 割出(卵)
2021/10/24 大夢プロスペック 200cc
2022/1/22 One in a million 試作品マット 500cc 5.0g
2023/2/18 捨て瓶 500cc 6.9g
2023/5/E 羽化確認
③ ♀ 38.6mm
2021/9/16 割出(卵)
2021/10/24 大夢プロスペック 200cc
2022/1/22 One in a million 試作品マット 500cc 7.1g
2023/2E 羽化確認
④ ♂ 56.7 mm
2021/9/16 割出(卵)
2021/10/24 大夢プロスペック 200cc
2022/1/22 One in a million 試作品マット 500cc 5.1g
2023/3/27 羽化確認
⑤ ♂ 57.7 mm
2021/9/16 割出(卵)
2021/10/24 大夢プロスペック 200cc
2022/1/22 One in a million 試作品マット 500cc 5.8g
2022/12/6 蛹化確認 7.3g
2023/3/27 羽化確認
⑥ ♂ 60.6 mm
2021/9/16 割出(卵)
2021/10/24 大夢プロスペック 200cc
2022/1/22 One in a million 試作品マット 500cc 8.4g
2022/1/22 蛹化確認 8.6g
2023/3/27 羽化確認
⑦ ♂ 61.1 mm
2021/9/16 割出(卵)
2021/10/24 大夢プロスペック 200cc
2022/1/22 One in a million 試作品マット 800cc 7.5g
2022/9/12 One in a million 試作品マット 800cc 11.4g
2022/2/18 蛹化確認 9.2g
2023/3/27 羽化確認
⑧ ♂ 62.0 mm
2021/9/16 割出(卵)
2021/10/24 大夢プロスペック 200cc
2022/1/22 One in a million 試作品マット 800cc 8.4g
2023/3/27 羽化確認
⑨ ♂ 62.8 mm
2021/9/16 割出(卵)
2021/10/24 大夢プロスペック 200cc
2022/1/22 恵栽園クワガタ発酵マット 800cc 9.0g
2022/9/12 恵栽園クワガタ発酵マット 800cc 12.7g
2023/1/22 蛹化確認 8.5g
2023/3/27 羽化確認
⑩ ♂ 63.5 mm
2021/9/16 割出(卵)
2021/10/24 大夢プロスペック 200cc
2022/1/22 One in a million 試作品マット 800cc 9.3g
2022/1/22 蛹化確認 9.5g
2023/3/27 羽化確認
⑪ ♂ 65.3 mm
2021/9/16 割出(卵)
2021/10/24 大夢プロスペック 200cc
2022/1/22 One in a million 試作品マット 800cc 8.4g
2022/9/12 One in a million 試作品マット 800cc 12.2g
2023/2/14 蛹化確認 10.0g
2023/4/E 羽化確認
⑫ ♂ 68.7 mm
2021/9/16 割出(卵)
2021/10/24 大夢プロスペック 200cc
2022/1/22 恵栽園クワガタ発酵マット 800cc 9.3g
2022/10/22 蛹化 11.5g
2022/12/4 羽化確認
6.まとめ
70mmUPを目標にブリードしましたがもう2-3歩及ばず。若齢から菌糸を食べられる個体と拒食する個体を選別、次世代以降で餌馴れさせるために初手を菌糸にしました。24-5℃の比較的高めの温度で管理。数抱えていないので何とも言えませんが♀と同じような成長度合いで菌糸を拒食しているような♂も一定数いそうでした。
2本目でマットに切り替え、ワインセラーを使って管理温度を大きく下げて臨みましたが、完品羽化した最大個体は1年3か月程で羽化し思ったよりも幼虫期間を引っ張れませんでした。最大体重個体(1本目10.4g、2本目13.6g)が蛹化を待たずして落ちてしまったのは痛かったですね…
羽化ズレなく♀を確保出来たので、引き続きインラインで継続しますが温度管理は少し見直ししたいと思います。今夏も伊豆大島採集に行きたいと思っているので、70mmUP♂が採集出来ればアウトラインをやっても面白そうです。
7. 参考資料・資材