1.はじめに
①クルビデンスオオクワガタについて
オオクワガタと言われてすぐに頭に浮かぶ種類は?という問いに対して、グランディス、アンタエウス、ホペイ!等の回答は割と一般的(世間的にはクッソマニア…)だと思いますが(いの一番で、パリーとかクルビ!等が出てくる人は斜に構えたクセのある人です。でもそんな人大好きです←おめーに告られても誰もうれしくねぇ)、今回はクルビデンスオオクワガタ(以下、クルビ)の飼育記録になります。本種は、北インド/チベット/ブータン/ミャンマー/タイ/中国等に生息する原名亜種、南ベトナム亜種が認知されています。(生息マップは以下参照)ちなみに南ベトナム亜種は別種の可能性もあり研究の進展が待たれるところです。
原名の中でも北インド、チベット産(ヒマラヤ系)は比較的人気もあって市場価格もまぁまぁ高いのですが、ミャンマー・タイ・ラオス・中国産、所謂インドシナ系は、日の目を見ない感半端ないんすよねぇ…。今回は敢えてインドシナ系代表格のタイ産の記録っす。(カッコつけて「敢えて」とか言いましたがタイ産はWDでもお財布に優しいのです←ドヤ顔)
同じ原名亜種でも結構顔が違っていて、インドシナ系は顎の湾曲が強いことに加え、内歯の位置がやや下方で内側に寝る感じですかね。一方で、ヒマラヤ系は日本のオオクワのように内歯が上を向きます。加えて艶も強いですよね。また、上翅が赤味が強い個体も居るので変化が楽しめます。うん、カッコいいぞ!!良いよ、クルビ!!みんなやらないか??
②タイ産クルビデンスオオクワガタについて
日本でよく見かけるのはタイ北部のチェンマイ県(ドーイサケット、ファーン、オムコーイ)のラベルですかね。今回ブリードするのはファーン郡産。地図(一番上の地図)を見ても分かるようにミャンマーとの国境に隣接する地域です。タイで2番目に高いDoi Pha Hom Pok(2,285M)を擁します。今回購入したクルビペアもこの山麓近辺が産出地なのかなぁと妄想。タイ北部の平均気温は24-5度と本州より低いので本種は、暑さに弱そうですよね。以前バンコクに住んでいたときに、観賞用で同種を飼育していたことがありましたが、熱帯の常温飼育でも元気に活動していたので成体は比較的暑さには強い印象です。
2.種親紹介
2018年10月入荷ペア1,700円でオークションにて購入しています。購入時期は2019年1月末頃ですね。入札は私1件…♂がB品ということで非常に買い求めやすい値段でした。
56mm ♂. フセツ欠け 大顎も擦れまくっています。短歯よりの中歯といったところでしょうか。
37mm ♀. 手に持ってみると重量感もあって良き。期待が持てます。
お腹を空かせていたようで、プロゼリーにがっついています。
夥しい量のダニが付いていたので、栄養補給完了後に微粒子針葉樹風呂に入ってもらいます。
ダニよりも微粒子状であれば専用の市販品でなくても良いかもしれません。一週間ほど針葉樹風呂に入れておくと綺麗に取り除くことができます。
この通り。餌をあげてしまうと水分を拠り所としてダニが復活してしまいますので与えてはいけません。
3.ペアリング-産卵セット-割出-幼虫飼育-羽化
① ペアリング(2019年2月上旬)
タッパーへ投入。すぐに交尾行動に移るものの、ものの5分くらいの逢瀬でございました。ガッツリ結合していたので掛かっているでしょう。
②産卵セット
コバエシャッター中ケースにカワラ材2本とコナラ材1本をきのこマット(月夜野きのこ園)へ埋め込んだ産卵セットにメスを投入。当時は引越し前でリビングの隅っこで常温管理。16-25度で温度が乱高下する環境でちゃんと産んでくれるか不安でしたね。割出は2か月後です。
③割出(2019年4月上旬)
セットしてからちょうど2か月くらい経過。放置しすぎると♀が幼虫を食べてしまうので、種類を問わず2か月-3か月くらいで割出しをすることを目安にしています。1週間ぶりにケースを開けた途端に大量のコバエが発生!!おえぇえええ。きのこマットはコバエが発生しやすいんですよねぇ。価格は手ごろですが状態を維持するのは至難の業です。4月に入って気温が乱高下したので急激に劣化した感じでした。温度管理してなかったのが仇となりました。まぁ、劣化直後に割出タイミングが来たので良かったです。写真が見にくくて分かりにくいのですが、材の周りに沿って穴が掘られており、材の裏に♀が回っていったような形跡があり期待大。材をめくってみると…
マットから初令幼虫がこんにちは。頭幅も小さいので♀ですかね。結局マットの中からはこの1匹のみ。クルビは材産み種なので、材から飛び出したのでしょう。
投入した材は、カワラ材2本とコナラ材1本。コナラ材は皮を付けたまま投入したのですが、木口を若干齧った箇所があるのみ。一方、カワラ材は齧った痕跡もあり良い感じです。
幼虫の食いカスもこのような感じで吹き出ています。
慎重に割っていくと、居ますねぇ。かなり堅いところにも入っています。
卵も出てきました。典型的なダラダラ産みです。
結局、♂4頭、♀6頭、卵5個を回収。
2本のうち1本のカワラ材が思ったよりも固く、潰してしまいそうなのと、♀もまだまだ産みそうなので、新しくマットを無加圧で敷き、残った材を置き、その上に割りカスをぶちまけたテキトー再セット。
④幼虫飼育
回収した幼虫は、月夜野きのこ園のヒラタケ菌糸(一部カワラ菌糸)に投入、基本2本孵しのユルユル飼育です。春先から夏場の幼虫飼育となるので、一応、温度だけは気を使って20度-22度設定のブリ部屋にて管理します。孵化してから2-3か月で3齢まで成長(最大21gを確認)するくらい成長速度が速く、少し驚きました。この頃から暴れる個体も散見されたので、適宜マット飼育(きのこの山:LBマット)に変更します。
マットに切り替えると底の方で居食いを始めてくれました。このまま大きくなってくれると良いのですが…。
⑤蛹化-羽化(2019年7月-)
早い個体で1回目の瓶投入から4か月くらいで♀の蛹化が始まりました。Dorcus系は羽化ズレの心配はしなくて別に良いっちゃ良いのですが、じっくり大きく育てたいですよねぇ。
♂は7月くらいから蛹化開始(写真は800ccの1本孵しした2頭。成長が早い2個体でしたが、羽化後の突然死や不全で落ちました泣)。20度管理だと蛹化-羽化期間が異様に長く3-4か月くらい…気長に待ちます。年明け1-2月からいよいよ割出をしていきます。
いい感じの大歯が出てくる一方で、ボーベリア菌?に捲かれてしまった個体も…
エロい個体(突然死したけど...)が出てきたりして、この瞬間がブリードサイクルの中で一番嬉しい&幸せな時ですよね。
4.羽化個体紹介
以下、ざっと羽化個体を紹介していきます。
① ♂70.0mm
2019年4月→500cc ヒラタケ
2019年8月→1400cc ヒラタケ (20g)
2020年1月中旬羽化
今回の最大個体...ギネス(インドシナ)が78.5mmなのでまだまだですね…顎ズレ、ディンプルある感じ。まだ羽パカしてないしポテンシャルは残ってるかな...
② ♂ 68.0mm
2019年4月→500cc ヒラタケ
2019年9月→1400cc ヒラタケ(19g)
2020年1月羽化
スッキリとした美型。内歯の曲がりが弱くストレート。
③ ♂ 65.6mm
2019年4月→500cc カワラ
2019年8月→1400cc LBマット(21g)
2020年2月初旬羽化
ディンプルもなく良き。内歯が横に寝ています。
④ ♂ 65.2mm
2019年4月→1400cc ヒラタケ
2019年9月→1400cc LBマット(21g)
2020年2月上旬羽化
こちらは内歯が上を向いています。こいつもええ顔してるな...
⑤ ♂ 64.2mm
2019年4月→1400cc ヒラタケ
2019年9月→800cc LBマット (20g)
2020年2月上旬羽化
⑥ ♀ 42.3mm
2019年4月→500cc カワラ
2019年8月→800cc カワラ(8g)
2019年10月羽化
来期の種親候補かな。
⑦ ♀ 42.1mm
2019年4月→500cc ヒラタケ
2019年8月→800cc カワラ(8g)
2019年10月羽化
この個体も悩ましい...在庫処理で謎のリレーをしてしまった…
⑧ ♀ 40.9mm
2019年4月→500cc ヒラタケ
2019年8月羽化
⑨♀ 39.5mm
2019年4月→500cc カワラ
2019年10月羽化
⑩ ♀ 39.0mm
2019年4月→500cc ヒラタケ
2019年10月羽化
5.まとめ
結局、15頭中10頭が羽化しましたが最大70mmで頭打ち。春先でのセットは室内常温飼育で問題なく産みました。セットはカワラ材の反応が頗る良かったです。埋め込まれた材の表面に卵をダラダラ産む感じ。再セットからはとれませんでした。幼虫は成長が早い印象だったので、交換タイミングの見極めがをうまくやらないとすぐ暴れちゃう印象でした。本種は内歯の形状が独特で見ていて飽きないし上品なオオクワなのでやはり好きですね。来期は75mmくらい出したいけれど、菌糸瓶の交換タイミングや最終瓶の選定等、少し考えないといけません...
親は存命。並べると体格差が明らかです。累代を重ねて標本をずらっと並べることが出来るくらい継続できると良いのですが…