1.はじめに
今回の主役であるローゼンベルグオウゴンオニクワガタ(Allotopus rosenbergi)は、モセリオウゴンオニクワガタと並ぶ人気種です。その所以は最大で80mmを超える体躯や大型化すると三又化する複雑な顎先、鮮やかなゴールドカラー、そして何といってもAllotopus属の中では流通量が多く比較的安価に入手が可能、というところでしょうか。その多くは現地飼育品であることが広く知られています(現地飼育品:幼虫採集、現地で飼育、羽化したもの) し、BE-KUWA34号ではその様子が克明にレポートされています。
また良く聞く話として、購入直後に頻発する突然死ですよね。御多分に漏れずこのサイクルで種親として使用予定であった74mmの大型♂が購入直後に死亡。クソが!!デカかったので標本にしました...
過去記事でも紹介したことがありますが、羽化直後に出荷し、そのショックで何らかの機能不全が起こってしまっているのだと思います。即ブリまで抱えると在庫品抱えることになるしリスクフリーしたいもんなぁ。
確実に飼育したいのであれば累代品を購入することをお勧めしますが、野外品程の流通量がないんですよね。現地飼育品を購入する場合は、以下3点を意識しながら管理することが肝要かと思います。
- 温度変化の少ない場所に置く(当方は18-20度にて管理)
- エサは与えず、湿らせたミズゴケ等を入れる
- 後食の目安はケース内の徘徊行動及び色付きの排泄物(←これを確認しないままエサを与えると死んでしまうこともありましたね。今まで綺麗だったケースに突如茶色い飛沫痕がつくのですぐ分かります)
羽化後3-4か月で活動、後食開始するようですが、それ以上寝る個体も居ますので、とにかく焦らずじっくり見極めることかなと。羽化直後に輸出される個体が多いと思うので、私は通関日=羽化日と見做して後食開始タイミングの当たりをつけています。
万が一、落ちてもハズレ引いちゃったな、同時期羽化個体探そうっと!くらいのメンタルがローゼン飼育には必要です。
2.種親紹介
今回使用した♂は2019年4月上旬羽化個体(63.5mm)西ジャワ Mt.ハリムン産 WF1
♀は2019年3月24日通関品 (52mm) 西ジャワ Mt.ハリムン産。特大の♀で重量感もたっぷりです。複眼周りの鋭い2つの突起がローゼン♀の特徴です。
3.ペアリング-産卵セット-割出-幼虫飼育-羽化
①ペアリング(2019年9月上旬)
羽化開始、通関後から5-6か月経過してからのペアリング。色付き糞尿を出してもゼリーを舐める程度ではペアリングさせません。ゼリーを1日で食べつくすほどの食欲が出るくらいまで引っ張っています。雌雄でそのタイミングが揃ったのがこの時でした。本種はじめAllotopus属は交尾欲が強く、メス殺しもないので安心してペアリングが可能です。2-3日同居させた後、♀を2週間程充分にエサを与え産卵に備えます。
②産卵セット(2019年9月中旬)
中ケースにおが屑を敷いて、植菌霊芝材を転がしたもの。霊芝材は西日本こんちゅう社のハイパーレイシ材を使用。
誘導穴をわざわざ作らなくても♀が勝手に齧り穿孔していきます。投入後2-3時間で木の中へ入ってしまいました。
③割出(2019年9月中旬-2019年11月上旬)
割出はこまめに行います。穿孔して4-5日サイクルで割出を行うようにしていました。少し油断していると菌糸に捲かれてしまいます。霊芝材の消費が激しいんよねぇ…たくさん採りたい方はストックしておくことをお勧めします。1回の割出につき5-6卵とれる感じですが、全てがコンディションの良い卵であることは少なく、歩留まりは悪い印象です。
パーツケースにウェットティッシュを敷いてその上に卵を置き、23-5度の温室で管理します。
回収後35日 管理温度18-19度で第一号孵化。次サイクルでは積算温度のデータもとってみたいと思います。
1本目菌糸投入までは無添加微粒子マットで養生、1か月程を目安として管理します。
計3回目のセット割出で、齧りも浅く、産卵が確認できなくなり、♂は2020年1月、♀は2月に☆に。
④幼虫飼育(2019年11月-)
養生プリカで1.5-2か月放置してしまいました。ちらほら落ちている個体も居るので、やはり、ひ弱な部類ですね。
1本目は500CCを使用します。
2本目は軒並み居食いもしてくれて良い感じ。25gも出たので、この時までは70UP楽勝でしょうと余裕かましていましたが、3本目で軒並み大暴れしました。自分で詰めたボトルでしたが、菌糸が回りきってすぐに投入したからか、幼虫が投入したことで菌糸が再活性化、それによって瓶内の酸素がどんどん消費されてしまって酸欠で暴れているような印象でした。
取り急ぎ、既製品のボトルが来るまで、眉唾と思いつつ小型ファンをボトルキャップに直置きして、丸一日送風し酸素共有を試みます。措置前まではボトル上部でワンダリングしていましたが、措置後はボトル下部で落ち着いて摂食しだしたようです。ボトル交換までの一時凌ぎとしては有効かと思いました。
⑤蛹化-羽化(2020年6月-)
6月中旬に蛹化第一号を確認。
最終交換時体重17gだった個体は蛹体重13g
7月中旬から順次羽化開始。
露天掘りしていたものの、中途半端な開口にしたためか蒸れにより水がたまってしまい羽化時に不全。応急措置はしましたがタイミングが遅かったようです。
4.羽化個体紹介
以下、ざっと羽化個体を紹介していきます。
① ♂64mm
2本目のボトルで25gまで体重がのってくれたので(しかも格安菌糸...)大変気分がよくなり2300ccへ投入したところ大暴れ。30%以上激ヤセするジェットコースターのような体重変化。愕然とするとともに罪のない虫への激しい怒りを覚えます。さらに追い討ちをかけたのは、蛹室内の蒸れにより羽パカ。完全に私の管理ミス。ストレス溜まる飼育です。
2019年9月22日割出(卵)
孵化日不明
2019年11月20日 北斗恵栽園 カワラ500cc
2020年1月25日 月夜野 カワラ1400cc (5g)*()投入時体重
2020年4月13日 大夢 カワラ 2300cc (25g)
2020年5月18日 グローバル カワラ 1400cc (17g)
2020年7月28日 蛹確認
2020年8月6日 羽化
② ♂ 60mm
完品羽化。こちらも①の個体と同様に激しいダイエットに成功しています。この体重減率は私も見習いたい...
2019年9月29日割出(卵)
2019年11月4日孵化
2019年11月20日 北斗恵栽園 カワラ500cc
2020年1月25日 月夜野 カワラ1400cc (5g) *()投入時体重
2020年4月13日 大夢 カワラ 2300cc (21g)
2020年5月19日 グローバル カワラ 1400cc (15g)
2020年7月28日 羽化
③ ♂ 62.9mm
60ミリを超えてくれるとそれなりに見れる虫になってきますね。蛹体重は13g 来期の種親候補とします。既に排泄も済ませており(2020年11月18日確認)そろそろ後食しそうです。
2019年9月29日割出(卵)
2019年11月27日孵化
2019年11月20日 北斗恵栽園 カワラ500cc
2020年1月25日 月夜野 カワラ2300cc (4g)*()投入時体重
2020年4月13日 大夢 カワラ 1400cc (19g)
2020年5月19日 グローバル カワラ 1400cc (17g)
2020年7月16日蛹化確認 蛹体重 13g
2020年8月19日 羽化
④ ♂ 60mm
2019年9月24日割出(卵)
2019年10月31日孵化
2019年11月20日 北斗恵栽園 カワラ500cc
2020年1月25日 月夜野 カワラ1400cc (6g) *()投入時体重
2020年4月13日 大夢 カワラ 1400cc (20g)
2020年5月31日 前蛹確認
2020年7月中旬 羽化
⑤ ♂ 53.7mm
途中から♀だなと思っていたものの♂だった個体。2300ccに入れても全然伸びませんでしたね。この個体も排泄を始めたので後食開始間近ですね。(2020年11月18日確認)
2019年9月29日割出(卵)
2019年10月31日 孵化
2019年11月20日 北斗恵栽園 カワラ500cc
2020年1月25日 月夜野 カワラ2300cc (3g) *()投入時体重
2020年4月13日 大夢 カワラ 1400cc (16g)
2020年5月31日 月夜野 カワラ 1400cc (14g)
羽化日不明(2020年7月中旬-8月上旬と推定)
⑥ ♂55mm
この個体も大暴れを経てコンパクトに羽化。複数ボトル返しの燃費クッソ悪いリレーで泣きたくなりますね。
2019年9月29日割出(卵)
2019年11月4日孵化
2019年11月20日 北斗恵栽園 カワラ500cc
2020年1月25日 月夜野 カワラ1400cc (5g) *()投入時体重
2020年4月13日 大夢 カワラ 1400cc (21g)
2020年5月19日 月夜野 1400cc (14g)
羽化日不明(2020年7月中旬-8月上旬と推定)
⑦ ♀ 48mm
2019年10月29日割出(卵)
孵化日不明
2019年12月29日 月夜野 カワラ500cc
2020年4月13日 大夢 カワラ1400cc (14g )*()投入時体重
2020年5月31日 月夜野 カワラ 1300cc (12g)
2020年7月28日蛹確認
羽化日不明(2020年8月上旬-9月中旬と推定)
⑧ ♀ 50mm
第一陣で採卵した個体。残念ながら親越えはならず。既にしっかりゼリーを食べていて即ブリの状態。
2019年9月24日割出(卵)
2019年10月30日孵化
2019年11月20日 北斗恵栽園 カワラ500cc
2020年1月25日 月夜野 カワラ2300cc (9g) *()投入時体重
2020年4月13日 大夢 カワラ 1400cc (13g)
2020年7月28日 羽化確認
(番外)♂65.5mm
羽化中に突然死してしまった個体。そういう個体に限ってサイクルの中で最大だったりします。
2019年11月3日割出(卵)
孵化日不明
2019年12月9日 月夜野カワラ500cc
2020年4月13日 大夢カワラ 1400cc (18g)*()体重は投入時
2020年5月31日 月夜野 カワラ 1400cc (23g)
2020年7月16日 月夜野 カワラ 1400cc (18g)
2020年8月31日蛹化確認 蛹体重14g
2020年10月14日 羽化
5.まとめ
結果として6♂2♀を羽化させることが出来ましたが、全く満足出来る内容ではありませんでした。当初目標としていた70UPはおろか65ミリにも届かないとは不甲斐なし。飼育温度は一貫して18-20℃。温度帯は大きく外していないような感覚でしたが、やはり課題は終齢での暴れをいかに抑え込むかがポイントですね。次回は菌糸が落ち着いたボトルの使用や管理温度をもう少し下げるなどの工夫を実行してみたいと思います。また、産卵では植菌レイシ材を使用しましたが供給が不安定なので、代替品を模索しようと考えています。次回こそは70UPの複数作出を目指します。