
(Odontolabis mouhoti mouhoti )
原名亜種 長歯型 ♂
1.はじめに
今回飼育したのは、タイ産のモウホツヤクワガタ原名亜種(Odontolabis mouhoti mouhoti)です。モウホツヤクワガタには3亜種が知られており、それぞれベトナム南部亜種、カンボジア・タイ中部の原名亜種、そしてタイ北部・中西部亜種に分かれます。今回は、その中でも比較的珍しい原名亜種を入手することができました。
産地はナコーンナーヨック県カオヤイ。当地は熱帯モンスーン気候に属し、涼季(11~2月)、暑季(3~5月)、雨季(6~10月)に分かれます。標高は400~1,300mの山岳地帯で、年間平均気温は23~25℃前後。日中の最高気温は26~31℃ほどで、1月には最低気温が13℃まで下がり、夜間は涼しくなるようです。年間降水量は2,000~2,500mmと、バンコクや東京(約1,500mm)と比べてもかなり多雨な地域です。
これらの環境条件を参考にしながら、飼育に取り組んでいきたいと思います。
2.種親紹介

♂ 61.5mm

♀40.2mm (Aライン)
♀ 42.7mm 3.4g (Bライン)

1♂2♀のトリオで購入。♂は顎が欠けている以外は、雌雄ともに完璧なコンディションです。これまで、エレガンス、カンボジア産原名亜種を手にしてきましたが、本種はエリトラの色合いがちょうど足して割ったような感じです。本種の生息地が亜種間の移行地域であることを気づかさせてくれます。
3.ペアリング・産卵セット
① ペアリング(2023年9月29日)

念のため追い掛けします。

野外品は簡単に交尾してくれてよいですね。


ゲニが引き抜かれた後に掻き出された液体。精子ですかね。
独特のフェロモン臭がします。特にツヤクワガタは臭いが強く、種類によって異なります。成熟の証なので、この臭いを知っておくと、ブリードのタイミングを推し量れるので、野外品飼育の経験は貴重です。
②産卵セット


グローバルのビートルマットとDVマットをブレンド。往年のツヤブリーダーの菊元氏がこの配合でセットを組んでいましたが、私も好んで選択しています。容器は中ケースを使用。管理温度は24-5℃です。
4.割出・幼虫飼育
①割出 (2023年10月28日‐)

モウホツヤクワガタの典型的な産卵行動ですね。

ゴルフボールほどのサイズの玉を無数に作っています。
玉の中に1-2個、3-4mmほどのしっかりした卵が入っています。プリンカップ管理に移行、初期割出分は孵化率が悪かったのですが、2回目以降安定していきました。
②孵化

③幼虫飼育
大部分は2齢後期~3齢初期まで430ccプリンカップで管理、個別管理においては24-5℃で飼育を継続するロットと、18-20℃で飼育するロットの2パターンで臨みます。
撮影していませんが、幼虫最大体重は27gでした。大型化すれば30g台後半までのるとは思いますが、頭幅の発達が悪く、雌雄判定には難儀しました。
5.羽化個体紹介
Aライン(種親♀40.2mm)
① ♀ 45.1 mm

2023/10/28 割出(卵)→ ビートルマット+無添加発酵マット 430cc 多頭
2024/1/22 ビートルマット+ライトマット 1700cc 11.8g
2025/4 自力ハッチ
② ♀ 48.4 mm

2023/12/2 割出→ ビートルマット+無添加発酵マット 430cc 多頭
2024/2/4 ビートルマット+無添加発酵マット 1400cc (CS)
2024/6/25 Lv3 継ぎ足し
2025/5 羽化確認
③ ♀ 49.1 mm

2023/12/4 割出→ ビートルマット+無添加発酵マット 430cc 多頭
2024/2/4 ビートルマット+無添加発酵マット+Lv4 430cc
2024/5/25 IT-5 1300cc 16.3g 11.6mm
2025/4 羽化確認
④ ♀ 49.6 mm

2023/12/2 割出→ ビートルマット+無添加発酵マット 430cc 多頭
2024/2/4 ビートルマット+無添加発酵マット +Lv5 1700cc
2025/4 羽化確認
⑤ ♂ 65.6 mm

2023/10/28 割出 (卵)→ ビートルマット+無添加発酵マット 430cc 多頭
2024/1/22 ビートルマット+Lv3 1700cc 13.4mm
2025/4 羽化確認
⑥ ♂ 68.8 mm

2023/12/2 割出→ ビートルマット+無添加発酵マット 430cc 多頭
2024/2/4 ビートルマット+無添加発酵マット +Lv5 1700cc
2025/4 羽化確認
⑦ ♂ 70.5 mm

2023/12/2 割出→ ビートルマット+無添加発酵マット 430cc 多頭
2024/2/4 ビートルマット+無添加発酵マット +Lv4 430cc
2024/4/5 IT-5+Lv5 5000cc 19.2g 12.7mm
2025/3 羽化確認
⑧ ♂ 71.2 mm

2023/12/2 割出→ ビートルマット+無添加発酵マット 430cc 多頭
2024/2/4 ビートルマット+無添加発酵マット +Lv5 430cc
2024/4/5 ビートルマット+無添加発酵マット+Lv5 5000cc 21.4g 12.8mm
2025/4 羽化確認
⑨ ♂ 73.2 mm

2023/12/2 割出→ ビートルマット+無添加発酵マット 430cc 多頭
2024/2/4 ビートルマット+無添加発酵マット +Lv4 430cc 22.5g 12.3mm
2024/4/5 IT-5+Lv5 5000cc
2025/1/30 前蛹確認(25℃⇒20℃)
2025/3/2 蛹化確認
2025/4/E 羽化
⑩ ♂ 74.4 mm

2023/10/28 割出(卵)→ ビートルマット+無添加発酵マット 430cc 多頭
2024/1/22 ビートルマット+Lv3 430cc 23.2g 13.0mm
2024/5/25 IT-5 5000cc
2024/7/3 劣化による継ぎ足しLV4+5 5000cc
2025/4/E 羽化
Bライン(種親♀42.7mm)
① ♀ 40.3mm

2024/1/8 割出(卵)→ ビートルマット+無添加発酵マット 430cc 多頭
2024/2/27 ビートルマット+Lv3 1300cc
2024/6/1 IT-5 800cc 8.9g (20℃)
2025/6 羽化確認
② ♀ 45.0 mm

2024/1/8 割出(卵)→ ビートルマット+無添加発酵マット 430cc 多頭
2024/3/10 ビートルマット+無添加発酵マット+Lv3+Lv5 1400cc (SC)
2024/6/22 繭形成確認
2025/3/5 自力ハッチ
③ ♀ 46.3 mm

2024/1/8 割出(卵)→ ビートルマット+無添加発酵マット 430cc 多頭
2024/2/27 ビートルマット+Lv3 1300cc
2024/6/1 IT-5 1300cc 12.6g
2025/3/21 羽化確認
③ ♀ 47.1 mm

2023/12/1 割出 → ビートルマット+無添加発酵マット 430cc 多頭
2024/2/4 ビートルマット+無添加発酵マット+Lv5 430cc
2024/4/27 IT-5 1400cc 15.7g
2025/3/21 羽化確認
④ ♀ 47.3 mm

2024/1/8 割出
2024/1/8 ビートルマット+Lv3 (改) 1400cc (CS)
2024/6/22 繭入り確認 (20℃)2
2025/5 羽化確認
⑤ ♀ 47.3 mm

2024/1/8 割出→ ビートルマット+無添加発酵マット 430cc 多頭
2024/3/10 ビートルマット+無添加発酵マット+Lv5 (改) 1400cc (SC) 10.0g
2024/6/22 繭入り確認
2025/1/30 羽化確認(自力ハッチ)
⑥ ♀ 48.4 mm

2024/1/8 割出→ ビートルマット+無添加発酵マット 430cc 多頭
2024/3/10 ビートルマット+無添加発酵マット+Lv5 (改) 1400cc (SC)
2024/6/22 繭入り確認
2025/1/15 羽化確認(自力ハッチ)
⑦ ♀ 48.8 mm

2023/12/2 割出→ ビートルマット+無添加発酵マット 430cc 多頭
2024/2/4 ビートルマット+無添加発酵マット 1400cc (SC)
2024/6/22 繭入り確認
2025/1/15 羽化確認(自力ハッチ)
⑧ ♀ 49.2 mm

2023/12/2 割出→ ビートルマット+無添加発酵マット 430cc 多頭
2024/2/4 ビートルマット+無添加発酵マット+Lv5 1700cc
2025/4 羽化確認
⑨ ♀ 49.4 mm

2023/12/2 割出→ ビートルマット+無添加発酵マット 430cc 多頭
2024/2/4 ビートルマット+無添加発酵マット+Lv4 430cc
2024/5/25 IT-5 1300cc 16.1g 11.7mm
2025/1/15 羽化確認(自力ハッチ)
⑩ ♂ 64.4 mm

2024/1/8 割出→ ビートルマット+無添加発酵マット 430cc 多頭
2024/3/10 ビートルマット+無添加発酵マット+Lv5 1400cc 6.2g
2024/6/25 Lv3+Lv5 1400cc 24.1g
2024/11/25 蛹化確認
2025/3/20 羽化確認(自力ハッチ)
⑪ ♂ 65.8 mm

2023/10/28 割出→ ビートルマット+無添加発酵マット 430cc 多頭
2024/1/22 ビートルマット+Lv3 430cc
2024/5/25 IT-5 1300cc 18.9g 12.2mm
2025/5 羽化確認
⑫ ♂ 65.2 mm

2023/12/1 割出→ ビートルマット+無添加発酵マット 430cc
2024/2/4 ビートルマット+無添加発酵マット 800cc
2024/5/25 IT-5 1500cc 25.2g 13.2mm
2025/3/21 前蛹
2025/6 羽化確認
⑬ ♂ 67.0 mm

2024/1/8 割出→ビートルマット+無添加発酵マット 430cc
2024/3/10 ビートルマット+無添加発酵マット+Lv5 800cc 4.1g
2024/6/24 Lv3+Lv5 2300cc 25.3g
2025/3/15 羽化確認
⑭ ♂ 74.4 mm

2023/12/1 割出→ビートルマット+無添加発酵マット 430cc
2024/2/4 ビートルマット+無添加発酵マット+Lv5 1400cc (CS)
2024/6/24 Lv3+Lv5 継ぎ足し 1400cc (CS) 27.2g
2025/3/20 自力ハッチ
⑮ ♂ 79.7 mm


2023/12/1 割出→ビートルマット+無添加発酵マット 430cc
2024/2/4 ビートルマット+無添加発酵マット+Lv5 1400cc (CS)
2024/6/24 Lv3+Lv5 継ぎ足し 1400cc (CS)
2025/3/21 前蛹
2025/8 掘り出し
6.まとめ

タイ産のモウホツヤクワガタは、カンボジア産とエレガンスを足して割ったような色合いだと冒頭で紹介しましたが、中にはエレガンスのように淡い色合いを示す個体(Aラインの⑦や⑧)も見られました。必ずしもエリトラの色だけで原名亜種と判断できるわけではない、という点は良い学びになりました。
今回は1♂2♀のトリオ体制で飼育しましたが、初回採卵分の孵化率が芳しくなく、トータル採卵数の割には羽化個体数は少なめでした。(もっとも、記事作成よりも販売が先行してしまい、データを取りそこなった個体も一定数出てしまいましたが…)
採卵時には、ビートルマットと無添加発酵マットをブレンドし、生ごみ処理機に一度かけたものを管理マットとして使用しました。幼虫は24~25℃で多頭飼育し、2齢後期から3齢初期まで管理。

当時、24~25℃の管理スペースが空いていたことと、低標高域での採集例もあったため、大部分をそのまま管理しました。温度を下げたのは、前蛹期に20℃まで下げたAライン⑨とBライン⑭・⑮の3頭のみ。なお、⑭と⑮については個別飼育に移行した段階から20℃管理に切り替えました。飼育ケースはクリアスライダー小を使用(5Lケースを使った個体は伸びなかった…)
結果として、クリスラ小でも十分に飼育可能であると感じました。♀についても、個別飼育に移行してから低温管理にしたものは羽化ズレもなく、安定した結果が得られました。

やはり、3齢初期あたりで個別に切り替え、そこから温度を下げていき、マットが減ってきたら継ぎ足し飼育を行うのが王道パターンなのだと思います。必ずしも大型容器が必要でない点もありがたいところです。
実際に飼育してみると、目を見張るような体重増加は見られず、頭幅も小さめで「正しい飼育ができているのか」と不安になりましたが、次回は余計な心配をせず、やるべきことを淡々と進めたいと思います。次のサイクルでは、80㎜アップかつ長歯型の個体を複数出したいところです。
以下、YouTubeに今回サイクルの最大個体の掘り出し動画をアップロードしました。もしよろしければこちらもご覧ください。
7.参考資料
![BE-KUWA(90) 2024年 03 月号 [雑誌]: 月刊むし 増刊 BE-KUWA(90) 2024年 03 月号 [雑誌]: 月刊むし 増刊](https://m.media-amazon.com/images/I/61M4qfcas6L._SL500_.jpg)