1.はじめに
今回は、マレーシア領ボルネオ島北部に生息するギラファホソアカクワガタ(Cyclommatus giraffa)の飼育記録です。本種は、鮮やかな赤いボディが特徴的で、野外ギネスサイズは78.5mmとキクロでは大型種の部類です。一方でギネスは63.5mmと大きく溝をあけられており、飼育の難しさを匂わせていますね。大図鑑の解説書には50Mの低地から2000Mの山地まで広く生息しているとの記載があり、この振れ幅が飼育困難種とされる要因の一つなのではないか、と勝手に考えています。今回は初挑戦ですのでゆるーく脱ハサミを目標にしながら本種の飼育における特徴や傾向を掴んでいきたいと思っています。
2.種親紹介
本種のメジャーな採集地は、ボルネオ最高峰キナバル山の南側に横たわるクロッカー山脈。今回飼育したのも同産地CBF2です。2♂3♀(1♀は羽パカでおまけ)でオークションにて購入しました。購入時期は2020年2月28日。♂のサイズが30ミリ未満の極小だったということと、野外品が纏まって入ってから一定サイクル回った後での購入ということもあり非常にリーズナブル(5-6千円程度と記憶)に手に入れることが出来ました。
3.ペアリング-産卵セット-割出-幼虫飼育-羽化
①ペアリング(2020年4月14日-24日)
羽パカの♀は早々 に☆になってしまったので2♀体制。
♂の後食の確認が出来ず、購入して2か月弱経過してからのペアリング。
②産卵セット(2020年4月24日)
中ケースに産卵一番と篩掛けした廃マット(LBマットベース)のブレンドと霊芝材の木片を埋設してセット。
③幼虫確認(2020年6月1日)
セットから1か月程でケース壁面から幼虫を確認。単発でしか見えなかったので全く産んでなさそうな感じです。
④割出(2020年7月15日)
外から何頭か見えだしたので、そこそこ取れたかな?と思いながら割出するも2♀体制でたったの10頭というなんとも寂しい結果に…既に2令に差し掛かっている個体が多く、
あと1か月くらい早く割出てもよい印象でした。
⑤幼虫飼育(2020年7月28日-)
事前によく加水したマットを容器に詰め、寝かしておいたものを準備します。10頭と数も少なかったので全頭1300-1500cc容器に投入、1本返し前提の18度環境で管理します。
⑥蛹化(2020年11月‐)
蛹室が見えたので掘り出してみると中歯サイズが確認できました。一応目標は達成できたようです。
⑦羽化(2020年12月-)
オスの羽化を確認。
水分過多により、不全で死んでしまったと思われる♀が3頭ほど。一方で♂には異常がありませんでした。
4.羽化個体紹介
① ♂ 43.0mm
2020年4月24日セット
2020年7月15日 割出
2020年7月27日 LBマット1300cc
2020年11月17日 前蛹確認
2021年1月22日 掘出
② ♂ 44.0mm
2020年4月24日セット
2020年7月15日 割出
2020年8月12日 LBマット1500cc
2021年1月22日 掘出
③ ♂ 47.0mm
2020年4月24日セット
2020年7月15日 割出
2020年8月12日 LBマット1300cc
2020年11月17日 前蛹確認
2020年12月28日 羽化
④ ♂ 48.4mm
当代サイクル最大個体。大歯に片足突っ込んでいるような個体ですね。大顎裏の突起が確認できます。
2020年4月24日セット
2020年7月15日 割出
2020年8月5日 LBマット1500cc
2020年12月28日 蛹化確認
2021年1月22日 掘出
⑤ ♀ 28.5mm
2020年4月24日セット
2020年7月15日 割出
2020年8月5日 LBマット1400cc
2020年11月17日 蛹化確認
2021年12月14日 羽化
⑥ ♀ 27.7mm(若干羽パカ)
2020年4月24日セット
2020年7月15日 割出
2020年8月12日 LBマット1300cc
2020年11月17日 蛹化確認
2021年1月22日 掘出
⑦ ♀ 28.4mm
2020年4月24日セット
2020年7月15日 割出
2020年8月12日 LBマット1400cc
2020年11月17日 蛹化確認
2020年12月28日 羽化
5.まとめ
当初の目標としていた脱ハサミは達成できましたが、7頭の羽化は少し寂しい結果となりました。蛹室形成場所の水分量が多すぎたことによる不全なのか、3頭落ちてしまいましたしね…次世代ではもう少し幼虫も採れるように努力したいところです。幼虫飼育の方向性としては間違っていないと思うので、割出、交換の時期、餌の工夫等について、今回サイクルから微修正して来期もやってみたいと思っています。
Afterコロナの外国産クワガタWDの輸入量は、持ち直すまではかなり時間がかかるでしょうから、その間に現地の採り子の状況や輸出規制が変化し、今後入ってこなくなる種類も出てくると考えています。本種も元々WDの流通も少ないですし、今後の展望(あくまで私見ですが…)を踏まえると大事につなげていきたいところです。本種をはじめとするボルネオキクロは、解明されていない生態もあり、ブリードにおける工夫の余地がたくさんあると思います。皆さんも是非挑戦してみてください。最後までご一読いただきありがとうございました。